きつねにっき

推しに引かれて善光寺

林蘭丸というひとのこと 4 平井と高野のこと

補論 平井と高野について

 そんなわけでとにかくしんどい蘭丸に付き従うのが平井と高野です。平井は悪徳スカウトをまとめ、高野は羅千地区を取り仕切っていたといいます[1]。何がどうなってこうなったのかはスピンオフ待ちではありますが、とにかく、二人羅千刑務所に収監された蘭丸を待ってDOUBTを維持していました。

 三人になったDOUBT幹部を見ると、ROCKYを囲むカイトとキジーの構図と対になるように、蘭丸を囲む高野と平井の図が完成します。平井はキジーに「蛇蝎の如く嫌われているらしいです[2]」。恐らく、女性を売り飛ばす平井は女性であるキジーにとってみたら許せないものだから、という推察が可能ではありますが、そこについてもスピンオフ待ちです。はよ。

 平井・高野両者のビジュアルは、ザム2における第一次黒白堂抗争の回想シーンを見ると、蘭丸が収監される前に戻っていることが確認できます。是非とも円盤でご確認ください。また二人は第二次黒白堂抗争の直前、全く同じタイミングでハーフグローブを手につけています。

 ザムやドラマに比べ、明らかに二人は楽しそうです。ザム2前半、Rascals奇襲戦において平井は「ひょーっひょひょーっクマちゃーん!![3]」と、高野は「へいへーい![4]」と手を叩きながらKOOさんを煽っています。ザムでの二人は女性を値踏みするかララちゃん誘拐するかしかしておらず、なんなら台詞も喧嘩シーンもありませんでした。しかしここにきて二人は水を得た魚のようにイキイキと悪事に精を出しています。

 特にこうした点において明らかな描写があるのは平井です。平井は前述の「クマちゃん」発言におけるテンションの高さの他、プリズンギャング登場時のコインファイト時の舌打ちから読み取れる苛立ちなど、今までに見せたことのないほど多彩な表情を見せています[5]。高野についても、蘭丸の「仲間なんて所詮自分のことしか考えてねぇ」という台詞の時に蘭丸の後頭部をじっと見つめています。

 ここから読み取れることは、少なくとも二人は蘭丸の出所を望んでいたということであり、蘭丸の鉄パイプ持ってばぶばぶしてる感じに惚れこんでいるだろうことが推察できます。

 HiGH&LOWにおける「大人」の必要条件が「守るものがある」であるならば、もしかすると平井と高野はその条件を持っている登場人物ではないでしょうか。彼ら二人はDOUBT、つまり蘭丸の場所を確保して待っていたのです。そうすると、幼稚性を強調される蘭丸との対照が際立ちます。子どもの王様を頂くお兄ちゃんみたいな状態ですね。

 両者の表情の白眉は最終幕で見せた、善信に踏んづけられる蘭丸をみる表情です。この瞬間こそ、それまで集団としてしか認識されていなかったDOUBTが人間になってしまった瞬間です。DOUBTの脱記号化はつまり、他のモブダウトと衣装や性格の上でほとんど差異がなかった高野と平井の脱記号化でもあったと考えられます。

 蘭丸は、「仲間なんて所詮自分のことしか考えてねぇ」と言い放つことからSWORDの「一斗缶みたいにあったけぇ」絆を持つことが出来ない人間であり、HiGH&LOWにおいて非常に異質な存在であると示してきました。しかし、善信に踏まれる蘭丸を呆然と見つめる平井と高野の姿を見れば、彼らは彼らなりに蘭丸を気に入っていることがわかります。そして蘭丸はコインファイトの後に戻ってきた彼らを見て、身を乗り出しました。まるで親を試す子どものように。

 蘭丸、平井、高野は覇道をいく悪漢のつながりでもって、「遊ぼう」と嘯きながら世を闊歩していくことでしょう。そこにSWORDの子どもたちが持つあったかい絆は存在しません。「全員主役」から零れ落ちた孤独の蟲毒の結果がDOUBTの三人であり、我々観客を魅了して止まない「悪い子どもたち」なのです。

 

[1] HiGH&LOW大図鑑

[2] 特典とパンフレット

[3] 筆者による渾身のリスニング…が間違っていたので字幕情報ではあるが、文脈的にアライグマでは…という疑念は拭いきれない。平井、動物好きなのかな。

[4] 同上

[5] 左手薬指だけマニキュアが白い点については平井を演じる武田航平曰く「ちょっとしたこだわり」(本人のインスタグラムより)だそうな。